内部障害リハビリテーションのすすめ

理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士です。心電図検定3級。内部障害を理解し臨床で活かす為のブログ。

腎臓の機能

おさらいですが、

腎臓リハビリテーションとは

腎疾患や透析医療に基づく身体的、精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポート等を行う、長期にわたる包括的なプログラムである。1)2)

1)上月正博:腎臓リハビリテーション(上月正博編著),医歯薬出版,2012

2)Kohzuki M : Renal rehabilitation : present and future perspectives. In : Hemodialysis, Suzuki H (ed), Intech, 2013, pp743-751

 

ところで、腎臓はどんな機能を果たしているのでしょう。

 

 

腎臓の機能

  • 老廃物の排出
  • 体液量とイオンバランスの調節
  • 造血作用
  • 血圧を調整する
  • 骨の生成に必要な活性型V.Dをつくる

 

老廃物の排出、体液量とイオンバランスの調節

血漿中の蛋白質以外の物質がすべてろ過されてしまうので、原尿中には、除去すべき老廃物や毒物だけでなく、水やグルコースアミノ酸などの栄養素、電解質など多くの有用な物質も含まれています。これらの物質は、原尿から血液に回収するために、尿細管中の原尿からその周囲の毛細血管に再吸収されます。

まず、栄養素は原尿が近位尿細管に流入すると、すぐに再吸収され、100%が血漿に回収されます。つまり、尿細管側がゼロになるまで血管に輸送するので、能動輸送により大量のエネルギーが使われます。また、細胞外液の主要電解質であるNa+もここで約80%が能動的に再吸収されます。このとき、Na+は相方の陰イオンのCl−も引っ張っていってくれます。さらに、Na+が血漿側で多くなるため、この浸透圧に引っ張られ水も約80%が受動的に再吸収されます。このように栄養素やNa+など必要なものはエネルギーを使ってでも再吸収するので、尿細管上皮細胞にはエネルギーをつくり出すミトコンドリアがぎっしり詰まっています。

f:id:yuki736:20171022120235j:plain

大成浄志(筆):標準理学療法学・作業療法学, 内科学. 第2版, 医学書院2004

 

 

 

造血作用についてはエリスロポエチン(erythropoietin : EPO)が関与しています。

  • 主に腎でつくられていることは知られているが、どの部位でつくられているかは不明です。尿細管周囲の間質細胞であると考えられています。
  • 骨髄に作用して成熟した赤血球系幹細胞に働き、赤血球の増殖と成熟を促す物質です。
  • 低酸素状態になるとエリスロポエチンの産生が増加し、慢性腎不全では産生が低下して腎性貧血の主な原因となります。

 

 

血圧の調整はレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System, RAAS)が働きます。

 

 

 

活性型ビタミンD

  • 近位尿細管のミトコンドリアに存在する酵素(25-OH-D3-1α-ヒドロキシラーゼ)によって変換されます。
  • 血清Ca濃度の調整を副甲状腺ホルモン(PTH)と共同して行います。
  • 活性型ビタミンDが作られないと小腸からのカルシウムの吸収が妨げられ、血中カルシウム濃度が低下し、骨がもろくなります。これは、PTHが血液中の不足したカルシウムを補おうとして骨からカルシウムが溶け出すためです。

 

 

 

単なるおしっこ生成臓器ではないんですね。

CKD患者や透析患者ではこれらの働きが低下または破綻しています。様々な身体症状が出るのも当然ですね。

それでは。

èè, 2 次åæ­é¢, å»ç, ãªã«ã¬ã³, 解åå­¦

呼吸不全とは

呼吸不全とは

(厚生省呼吸不全調査研究班)

 

①室内気吸入時の動脈血酸素分圧が60Torr以下となる呼吸器系の機能障害またはそれに相当する異常状態を呼吸不全と診断する。

 

②呼吸不全の型を2型に分け、動脈血二酸化炭素分圧が45Torrを越えて異常な高値を呈するものとしからざるものとに分類する。

 

③慢性呼吸不全とは呼吸不全の状態が少なくとも1ヶ月以上持続するものをいう。なお、動脈血酸素分圧が60Torr以上であり、呼吸不全と診断されるには至らないが、ボーダーライン(60Torr以上、70Torr以下)にあり、呼吸不全に陥る可能性の大なる症例を準呼吸不全として扱う。

 

 

 

酸素化不全(Ⅰ型呼吸不全)

酸素化不全とはPaCO2が正常(換気が正常)で、PaO2が空気呼吸下で60mmHg未満となる呼吸不全。

 

【臨床的には】

PaO2は酸素化の指標として重要であるが、FIO2(吸入気酸素濃度)、気圧、PaCO2の値に影響を受ける。そのため、酸素化の評価にはFIO2や気圧、PaCO2から導き出されるPAO2との比較が重要である。

PAO2=PIO2-PaCO2/R

         =FIO2(760-47)-PaCO2/0.8

         =150-PaCO2/0.8              (室内気の場合)

*R:呼吸商

すなわち、酸素化の評価にはA-aDO2(肺胞気動脈血酸素分圧較差)を見る必要がある。A-aDO2についてはこちら。

yuki736.hatenablog.com

 

ただし、FIO2が20%〜40%までの間では急峻に変化するので吸入気が室内気でない場合には解釈に注意を要する。 FIO2が21%以上の場合には酸素化指数(P/F ratio)によって肺内ガス交換障害の程度を評価することが推奨されている。

 

 

 

 

換気不全(Ⅱ型呼吸不全)

換気不全とは、肺胞換気量が減少しPaCO2が上昇する呼吸不全

PaCO2=VCO2×0.863/VA

すなわち、PaCO2炭酸ガス産生量(VCO2)に正比例し、肺胞換気量(VA)に反比例する。

PaCO2は換気の指標であり、PaCO2が45mmHg以上に上昇する場合は換気不全である。

PaCO2が35mmHg以下では過換気、80mmHg以上ではCO2ナルコーシスで昏睡状態となる。

èº, 解åå­¦, å¼å¸, æ°ç®¡æ¯ç, ããã£é¨å, 赤

車椅子は恥ずかしい?

今日は訪問リハビリの日でした。

訪問先の高齢女性。「外に出るのもいいけど、車椅子は恥ずかしいね」と言った。

全然恥ずかしいことなんかないのに。きっとそう思わせる何かがあったのだろう。

まだ車椅子は今の社会にとって「普通」じゃないのだろうな。

もっともっと社会は変われる。

微力ながら私も変えていく。地道に続けていく。

 

それでは。f:id:yuki736:20171129215250j:image

呼吸困難感の種類

yuki736.hatenablog.com

こちらで紹介した呼吸困難感について、もう一歩踏み込んでみます。

 

患者さんの呼吸困難感の感じ方は様々です。「吸いづらい」「空気が足りない」など患者さんによって表現の仕方が違います。感じ方によってある程度原因が予測できます。

化学受容器が関与する呼吸困難では、「空気が足りない」「息苦しい」「吸わないといられない」など空気飢餓感をうかがわせる表現で説明される。

運動皮質が関与する呼吸困難では「大きな呼吸をする必要がある」「努力して呼吸をする必要がある」など努力感をうかがわせる表現で説明される。

呼吸関連効果器からのフィードバックが関与する呼吸困難では「吸えない」「肺が硬くて吸いにくい」など吸気不足感・圧迫感などをうかがわせる表現で説明される。

(小川浩正)

 

呼吸困難感 - 内部障害リハビリテーションのすすめでも説明した通り、呼吸困難のメカニズムは複雑です。しかし、その原因に対する介入をすることで効果的なリハビリテーションが提供できます。そのために、患者さんの訴えに耳を傾けてください。どんな動作をしたときに、どんな呼吸困難感を感じるのか。また、その時のバイタルサインの変化も評価する必要があります。血圧、経皮的酸素飽和度、呼吸数、心拍数(脈拍数)を評価します。その他、表情、会話が可能か、チアノーゼの有無、呼吸補助筋の活動、呼吸パターンの変化等フィジカルアセスメントを徹底して行ないます。そうすると、患者さんが感じている呼吸困難感の原因を推測し、適切な治療が実施できるはずです。また、適切なADL動作指導ができるはずです。

大切なのは患者さんの訴えを聞くことです。

 

それでは。

透析中の運動療法

腎臓リハビリテーションとは

腎疾患や透析医療に基づく身体的、精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポート等を行う、長期にわたる包括的なプログラムである1)2)

1)上月正博:腎臓リハビリテーション(上月正博編著),医歯薬出版,2012

2)Kohzuki M : Renal rehabilitation : present and future perspectives. In : Hemodialysis, Suzuki H (ed), Intech, 2013, pp743-751

 

透析中の運動療法ではどんなことを行なうのか

血液透析を実施している最中ですので、シャント側の上肢は動かせません。立位もとれません。臥床またはベッドアップ座位でのトレーニングを行ないます。内容はストレッチ、筋力トレーニング、自転車エルゴメーターなどの有酸素運動です。

 

透析中に運動療法を行うメリット

  • 監視型の運動1)2)
  • 1回の透析時間を4時間から5時間したのと同程度の効果がある4)
  • 乳酸アシドーシスを是正する2)3)
  • 透析以外の時間に運動の時間を設定しなくてよい1)
  • 継続性が高い1)
  • 筋力低下により歩行困難な患者でも運動可能1)

1)松嶋哲哉, 松嶋肖子 : 運動療法の実際. 総合リハ43(5) : 433~442, 2015

2)平松義博 : CKD透析患者の透析中の運動療法. Journal of clinical rehabilitation24(10) : 983~989, 2015

3)河野健一, 西田祐介 : 血液透析患者に対する透析治療中に行う理学療法, PT ジャーナル48(8) : 719~727, 2014

4)上月正博 : 透析患者のリハビリテーションの必要性とその問題点, 理学療法29(10) : 1092~1099, 2012

 

透析中に運動療法を行うデメリット

  • 姿勢が限られる1)
  • 抗重力筋のトレーニングとしては不十分1)
  • 保険収載ができない

1)松嶋哲哉, 松嶋肖子 : 運動療法の実際. 総合リハ43(5) : 433~442, 2015

 

透析患者に対する運動療法の効果

・最大酸素摂取量の増加

・左心室収縮機能の亢進(安静時・運動時)

・心臓副交感神経系の活性化

・心臓交感神経過緊張の改善

・栄養低下、炎症複合症候群の改善(MIA症候群の改善)

・貧血の改善

・睡眠の質の改善

・不安・うつ・QOL(生活の質)の改善

・ADL(日常生活活動)の改善

・前腕静脈サイズの増加(特に等張性運動による)

・透析効率の改善

・死亡率の低下

上月正博:腎臓リハビリテーションとは何か.腎と透析80:165−169,2016

 

f:id:yuki736:20171024082423p:plain

 

透析中の運動療法が普及しない1番の要因は「保険収載ができない」ことだと思います。透析中の運動療法を行なうとなるとサービスで行なうのが現状です。運営側からすればお金にならないことには手を出したがりませんよね。私の職場では理学療法士がサービスで運動指導しています。他の施設では評価をリハビリスタッフが行い、看護師や臨床工学技士が運動実施を補助したり、映像を使って実施したりしているようです。でもよくよく考えてみるとですよ。運動療法を実施したことで死亡率が減少して長く透析治療をやってもらえたり、運動療法ができるからと透析治療の場を選んでもらえたりすれば、運営面で考えても決して無駄なことではないと思うんです。それをいかに理解してもらうかが大変なんですけどね。実際、私も苦労しました。(職場の40人以上いるリハビリスタッフの中には今も理解していただけない人はそれなりにいますが。。。)提案をして理解してもらって実施して経験できているのは携わった人だけです。それが患者さんのためになるならそれでいいと思います。自分の信念を曲げる必要はありません。

それでは。

http://www.showadenki.co.jp/terasu/img/product/erugo3/img_main.jpg

Showa + てらす

腎臓リハビリテーション学会理事長の上月正博 先生(東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野)が開発に携わり、私の職場でも使用しているてらすエルゴです。

腎臓リハビリテーション

私は職場で人工透析中の運動療法を担当しています。また、透析中以外も維持透析入院患者を多く担当しています。透析中の運動療法は全国的にも実施している施設はまだ少ないですが、徐々に多くなってきていると思います。腎臓領域でも運動療法はトピックスです。

 

腎臓リハビリテーションとは

腎疾患や透析医療に基づく身体的、精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポート等を行う、長期にわたる包括的なプログラムである。1)2)

1)上月正博:腎臓リハビリテーション(上月正博編著),医歯薬出版,2012

2)Kohzuki M : Renal rehabilitation : present and future perspectives. In : Hemodialysis, Suzuki H (ed), Intech, 2013, pp743-751

 

透析患者の現状

年別導入患者数、死亡患者数の推移

f:id:yuki736:20171022110940j:plain 

日本透析医学会ホームページ:図説 わが国の慢性透析医療の現況 −目次−

2014年の導入患者は38,327人で前年度より232人増加しました。2009年までは導入患者数は増加傾向を示していましたが、2010年以降は微弱な患者増減はありますがほぼ横ばいで推移しています。一方、死亡者数は30,707人で2013年より44人減少しました。死亡患者数も一貫して増加してきましたが、2011年以降は、ほぼ横ばいで推移しています。

 

慢性透析患者数の推移

f:id:yuki736:20171022111904j:plain

日本透析医学会ホームページ:図説 わが国の慢性透析医療の現況 −目次−

慢性透析患者数の推移です。2011年末に初めて30万人を超え、慢性透析患者数は2014年末には320,448人となりました。この数は、前年より6,010人の増加です。2005年ころまで年間約1万人ずつ増加していましたが、近年慢性透析患者数の増加が鈍ってきています。

 

つまり、透析患者数は増加し続けています。さらに高齢化が進み、透析患者を担当することも珍しくありません。平成24年の診療報酬改定で回復期リハビリテーション病棟での受け入れも可能となりましたし。

 

保存期CKD患者、透析導入患者に対するリハビリテーションは追ってブログを作成したいと思います。

それでは。