透析中の運動療法
腎臓リハビリテーションとは
腎疾患や透析医療に基づく身体的、精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポート等を行う、長期にわたる包括的なプログラムである。1)2)
1)上月正博:腎臓リハビリテーション(上月正博編著),医歯薬出版,2012
2)Kohzuki M : Renal rehabilitation : present and future perspectives. In : Hemodialysis, Suzuki H (ed), Intech, 2013, pp743-751
透析中の運動療法ではどんなことを行なうのか
血液透析を実施している最中ですので、シャント側の上肢は動かせません。立位もとれません。臥床またはベッドアップ座位でのトレーニングを行ないます。内容はストレッチ、筋力トレーニング、自転車エルゴメーターなどの有酸素運動です。
透析中に運動療法を行うメリット
- 監視型の運動1)2)
- 1回の透析時間を4時間から5時間したのと同程度の効果がある4)
- 乳酸アシドーシスを是正する2)3)
- 透析以外の時間に運動の時間を設定しなくてよい1)
- 継続性が高い1)
- 筋力低下により歩行困難な患者でも運動可能1)
1)松嶋哲哉, 松嶋肖子 : 運動療法の実際. 総合リハ43(5) : 433~442, 2015
2)平松義博 : CKD透析患者の透析中の運動療法. Journal of clinical rehabilitation24(10) : 983~989, 2015
3)河野健一, 西田祐介 : 血液透析患者に対する透析治療中に行う理学療法, PT ジャーナル48(8) : 719~727, 2014
4)上月正博 : 透析患者のリハビリテーションの必要性とその問題点, 理学療法29(10) : 1092~1099, 2012
透析中に運動療法を行うデメリット
- 姿勢が限られる1)
- 抗重力筋のトレーニングとしては不十分1)
- 保険収載ができない
1)松嶋哲哉, 松嶋肖子 : 運動療法の実際. 総合リハ43(5) : 433~442, 2015
透析患者に対する運動療法の効果
・最大酸素摂取量の増加
・左心室収縮機能の亢進(安静時・運動時)
・心臓副交感神経系の活性化
・心臓交感神経過緊張の改善
・栄養低下、炎症複合症候群の改善(MIA症候群の改善)
・貧血の改善
・睡眠の質の改善
・不安・うつ・QOL(生活の質)の改善
・ADL(日常生活活動)の改善
・前腕静脈サイズの増加(特に等張性運動による)
・透析効率の改善
・死亡率の低下
上月正博:腎臓リハビリテーションとは何か.腎と透析80:165−169,2016
透析中の運動療法が普及しない1番の要因は「保険収載ができない」ことだと思います。透析中の運動療法を行なうとなるとサービスで行なうのが現状です。運営側からすればお金にならないことには手を出したがりませんよね。私の職場では理学療法士がサービスで運動指導しています。他の施設では評価をリハビリスタッフが行い、看護師や臨床工学技士が運動実施を補助したり、映像を使って実施したりしているようです。でもよくよく考えてみるとですよ。運動療法を実施したことで死亡率が減少して長く透析治療をやってもらえたり、運動療法ができるからと透析治療の場を選んでもらえたりすれば、運営面で考えても決して無駄なことではないと思うんです。それをいかに理解してもらうかが大変なんですけどね。実際、私も苦労しました。(職場の40人以上いるリハビリスタッフの中には今も理解していただけない人はそれなりにいますが。。。)提案をして理解してもらって実施して経験できているのは携わった人だけです。それが患者さんのためになるならそれでいいと思います。自分の信念を曲げる必要はありません。
それでは。
腎臓リハビリテーション学会理事長の上月正博 先生(東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野)が開発に携わり、私の職場でも使用しているてらすエルゴです。