内部障害リハビリテーションのすすめ

理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士です。心電図検定3級。内部障害を理解し臨床で活かす為のブログ。

忘れられない人

私には忘れられない人がいます。今年会った人ですが、知り合いである看護師の親族の男性です。

 

その男性は、突発性間質性肺炎で入院、ステロイドパルス療法を実施し、HOTを導入して自宅で生活をしていました。経営者であり仕事にも車で行っており、ゴルフが趣味でした。退院時に医者から、筋トレなど運動するように言われたがどんなことをやったらいいのか、息苦しさにはどうしたらいいのか、わからないので私に1度会って教えてもらいたい、とのことでした。

 

1週間後、自宅まで会いに行きました。まず、道路から玄関までは10数段の階段がありました。手すりはありません。会ってみると、安静時も呼吸補助筋を動員しており、呼吸仕事量が多そうな印象です。HOTの設定は安静時2L/分、労作時5L/分。屋内を数m歩くだけで修正BorgScaleで6の息切れが生じます。mMRC Grade4です。SpO2は安静時90%前半でしたが、少しでも動くと80%前半まで低下し、70%後半まで下がることもあるそうです。顔は浮腫み、下肢は以前と比べるとかなり痩せてしまったそうです。聴診では肺野にFine cracklesを聴取しました。チアノーゼ、ばち指はありません。酸素化不良による呼吸苦、呼吸仕事量の増大、ステロイドミオパチーによる筋力低下、動作時の呼吸同調不良が主な活動制限の原因と考えられました。これは私の出番です。その男性と家族の希望もあり、数回運動指導と動作指導をすることになりました(無償です)。

 

元々寝室は2階で、現在は1階で寝ている。2階で寝たいという希望もありました。 屋内の階段を、呼吸と同調させて2階へ登ってもらうと、SpO2は80%前半まで低下しますが、いつもより楽に登れたとのこと。また、久しぶりに2階に来たとのこと。

 

仕事にも車で行っていたのですが、家の玄関から道路まで10数段の階段がこれまた大変だと。指導後、呼吸と同調させてゆっくり移動して、何とか以前より楽に移動できたようです。

 

1ヵ月以上関わりましたが、病状は進行し、呼吸苦も一時的に良くなったがまた悪化していきました。本人、家族も覚悟していたのだと思いますが、最後の望みで関東にある某呼吸器専門病院を受診することになります。

入院してステロイドパルス療法、血液浄化療法を実施したそうです。入院して1ヵ月も経たなかったと思いますが、治療は奏功せず、最期は10分程苦しんで旅立たれたそうです。

 

後にご自宅へご挨拶に伺いました。奥様から感謝され、趣味であったゴルフに関しても「1振りだけでもいいからスイングしたい、あとは見てるだけでもいいから」と言っていたそうです。また、その希望が叶うように、私とのトレーニングを楽しみにしてくれていたようです。

その話を聞いて私はとても嬉しかったですし、私が関わったことで少しでも生きる目標を持って最期を迎えられたのなら、私が関わった意味があったのかなと思います。それと同時に、理学療法士としての無力さも大いに感じました。病態的にこの男性の病気は治ることはありません。わかっていても、それでも何とかしてあげたかったけど、夢を叶えられなかった。とても悔しかったです。たった1振りでもスイングさせてあげたかった。そんな想いで溢れています。

 

この男性との関わりで生じた疑問は、医者(その他職員)は具体的な運動療法やADL動作は教えてくれていなかったことです。そして問うてみたいのです。玄関までは道路から10数段の階段があることを知っていましたか?寝室は2階だったことを知っていましたか?入浴動作指導はしましたか?トイレに座るとお尻が痩せて痛いことを知っていましたか?家族で焼き肉に行きたいと思っていたこと、知っていましたか?この人のゴルフに対する想い、奥様の想い、知っていましたか?

 

男性を治療した医者や病院を非難するつもりはありません。適切な治療をしてくれたのでしょう。でも、病気の治療だけで終わってはいけないのです。その後には生活があります。実際問題、その男性は生活に困っていました。疾患によっては一生付き合っていかなければならないのでその管理も必要です。家族もいます。治療だけで終わってはいけないと思いました。

当たり前のことを当たり前にできる、実は大変なことだと思います。

私も日々、患者さんの治療にあたっては、その人の想いやその後の生活のこと、深く考えて関わっていけるよう気をつけています。

 

それでは。明日も患者さんが待っています。

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